経営戦略の学派-8
ラーニング・スクール
分析型経営戦略理論と並ぶ有力な学派であり、学習プロセスを重視し、学習の中から、主として自社の保有する経営資源を活用して、機会をつかみ、また時には機会を自ら創造しつつ、戦略形成を行うグループである
1 戦略候補を獲得する要素は分析だけではない
分析的経営戦略形成論では、特にポーターの理論によると、業種・業界、顧客、仕入先、新規参入、代替製品という5要素を軸に分析を進めることになる。
これは外部環境の内、世界と自国の社会・経済・政治的状況の分析を欠落させている。5フォースは、所属する業種・業界、産業の分析に、ほぼ該当するものである。
また、分析が所属産業の市場を中心に行われることから、自社の保有するスキル・技術・ノウハウ、知的資産、組織能力、組織的活動、品質保証、設備、ケイパピリティ、経営理念、企業体質といった企業の内的環境の分析は行わないことになる。
経営戦略理論によって経営戦略が形成されるわけではない。経営戦略は戦略候補を湧出させ、その後、人間が戦略的意思決定を行って、数ある「戦略候補」の中から、戦略を決定するのである。
「戦略候補」を導き出す要素は、分析だけではなく、
①環境変化に対する「分析」
②自社の保有するスキル・技術・ノウハウなどに対する「評価」を行い、それを市場の機会に生かす、あるいは新製品などを通じて機会そのものを創りだす
③自社の保有するスキル・技術・ノウハウを評価し、それらを組み合わせて、新しいスキル・技術・ノウハウを開発しつつ、機会に生かす、あるいは機会そのものを創造する
④自社の保有するスキル・技術・ノウハウを「評価」し、それらを「企業外部にあるスキル・技術・ノウハウと組み合わせ」て、新しいスキル・技術・ノウハウを開発しつつ、機会に生かす、あるいは機会そのものを創造する
というものがある。
つまり、分析ではなく評価を行い、それを組み合わせ、それによって機会を創造するというものである。
経営資源の評価、組み合わせによる機会の創造とは、新製品の着想、顧客の用事などに気づく必要があり、それはいつ、誰が気づくかが分からないものである。
このことから、ポーターの分析範囲は市場に限定されたものであり、極めて狭いといえる。
しかし、自社の属する産業=環境も、それほど単純なものではない。
「世界はあまりにも複雑すぎるので、戦略を初めから一度に明確なプランやビジョンという形であらわすことは不可能である。ゆえに戦略は、組織が適応あるいは「学習する」中で、少しずつその姿を現さなければならない」という考えを基礎にもつのが、ラーニング・スクールであるとミンツバークはいう。
2 ラーニング・スクールの起源と本質
ラーニング・スクールの起源について、「1980年にジェームス・ブライアン・クインが発表した『変革のための戦略:論理的斬新主義』である」とミンツバーグは述べている。ラーニング・スクールの本質は、「戦略とは人々が状況を学習したり、その状況に対処する組織そのものの能力を学習するところから生まれる。そしてその学習は、個人個人というよりはほとんどが集合体として行われる。その結果、戦略は組織内でうまく機能する行動パターンとして収束する。ラビエールはこれを、次のようにうまく表現している。「もはや変化のマネジメントではなく、変化によるマネジメントになった」」と・・・。
環境変化に単に対応するのではなく、変化=機会という認識の元に、企業の内的資源を活用して、機会を創造することの必要性をミンツバーグは説いているのである。
3 ラーニング・スクールの理論家
ミンツバーグは、「戦略形成に情報を与えるために役立つ組織学習に関しての、新たな3つの動向をレビューする。それらは知識創造としての学習、ハメルとプラハラードのダイナミック・ケイパビリティ・アプローチ、カオス理論である」としている。
知識を創造するための学習を行い、組織内から創発戦略を湧出させる学習系の理論家には、センゲ、野仲郁次郎らがいる。
「プラハラードとハメルの研究には、アントレプレナー・スクールと似通ったビジョンがかなりある。そして最終的な分析としては、・・・主にデザイン・スクールとラーニング・スクールの混成物であると見るようになった。いわば、適応的戦略を概念的デザインのプロセスとして考える、現代的な見方といえよう」と、コア・コンピタンスに対するコメントをミンツバーグは行っている。
カオス理論については、ハメル&プラハラード、野仲郁次郎、コリンズなど多くの識者が提案している。
4 日本人に適したラーニング・スクール
日本的経営を提案したものには、パスカル&エイソスによる『ジャパニーズ・マネンジメント』講談社 1983年、エズラ.F.ヴォーゲルの『ジャパンアズナンバーワン』TBSブリタニカ 1980年などがある。
とくに、後者のヴォーゲルは、日本人の学力の高さ、日本の社会人の学習に対する時間の長さを挙げ、それが日本的経営の特徴の一つであるとしている。
日本人は礼儀正しく、勤勉で、誠実であるという評価を得ていた。この勤勉の現れの一つが学習時間の長さであった。
農耕民族であり、集落という組織内で、集団で農作業を行うということは、そこに情報交換・共有、討議、結論、分業、協力、軋轢・・・などが存在していたと思われる。稲作を中心とする弥生時代の仕事の進め方は、みんなで知恵を出すという視点からすると学習する組織的な雰囲気があったと思われる。
このラーニング・スクールの考え方は、ナレッジ・マネジメントとミドル・アップダウン・マネジメントとの結合によって、企業のオペレーションの重要な核となるものであり、「日本様式経営」として結実していくことになる。
経営戦略形成について、5フォース分析、PPM分析などを用い、プランニング・スクールとは異なり、分析プロセスを極めて重視するグループである。
ミンツバーグは、「このスクールは戦略形成のプロセスよりも、実際の戦略の内容を重視し、市場における戦略的ポジションの選択に焦点をあてているために、ポジショニング・スクールと呼ばれる」としている。
ポジショニング・スクールの意義として、「さらに2つの方法で内容を付加していった。1つは、戦略策定のプロセスだけではなく、戦略そのものの重要性を強調したことである。そして次に実質的な中身を付け加えたのだ」という評価をミンツバーグは与えている。
経営戦略形成について、5フォース分析、PPM分析などを用い、プランニング・スクールとは異なり、分析プロセスを極めて重視するグループである。
さらにミンツバークはポジショニング・スクールの戦略の特徴について
このスクールの欠陥をミンツバークば「数字を分析したり、あるいは数字がはじき出した結果に気を取られ、戦略家や研究者が実体的な諸顧客のいる世界に足を踏み入れることをやめてしまったとしたら、ポジショニング・スクールは、戦略マネジメントに大きな損害を与えたことになる」と指摘している。
ミンツバーグの指摘以外に、環境の変化によって、
私たちが視察した企業のその後は、IT、旅行、システム、機械・装置、教育などのベンチャー企業の内、旅行は1社売却、1社破たん、システムは未上場、バイオ関連は売却、教育は破たん、ITは1社上場、3社破たんという結果であった。
合計するとIPO1社、売却2社、存続1社、破たん5社というものであった。
9社中1社がIPO、売却が2社、未上場のまま存続が1社というのは、ベンチャー企業の世界では成績が良い部類に属すると思われる。
これらの企業を支えたのは、ポジショニング・スクールの分析型経営戦略理論である。予測できない未来を、過去の数値データの分析で乗り切ることはできない。意図した経営戦略は環境の変化に遭遇すると通用しなくなる。
創発戦略が必要とされることになる。
経営戦略の学派-2
経営戦略理論10の学派
ミンツバーグの『戦略サファリ』によって、経営戦略理論は10の学派に整理された。
ミンツバークの功績
『戦略サファリ』(東洋経済新報社 1999年)は、ミンツバークが『戦略形成-思考のスクール』という論文を発展させて、一冊の著書としてまとめたものである。
この内容は、戦略形成についての考え方に対してスクール(学派)という名称をつけて、10のグループに分類したものである。これによって、世界の多数の経営戦略に関する論文・著書および論者が明確に、整理され、位置づけられたのである。
ミンツバーグは経営戦略理論の分類について
①生成に関する歴史的なトレース
②各戦略形成グループの意義・役割
③各戦略形成グループの限界・欠陥
といったものを明確にするという役割を担っているとしている。
ミンツバーグの経営戦略10のスクール
スクール 見解
デザインスクール・・・・・・・・コンセプト形成プロセスとしての戦略形成
プランニングスクール・・・・・・形式的策定プロセスとしての戦略形成
ポジショニングスクール・・・・・分析プロセスとしての戦略形成
アントレプレナースクール・・・・ビジョン創造プロセスとしての戦略形成
コグニティブスクール・・・・・・認知プロセスとしての戦略形成
ラーニングスクール・・・・・・・創発的学習プロセスとしての戦略形成
パワースクール・・・・・・・・・交渉プロセスとしての戦略形成
カルチャースクール・・・・・・・集合的プロセスとしての戦略形成
エンバイロメントスクール・・・・環境への反応プロセスとしての戦略形成
コンフィギュレーションスクール・変革プロセスとしての戦略形成
10のスクールの分類によって
ミンツバーグが10の学派に経営戦略理論を分類・整理したことによって、また「経営戦略に唯一絶対の法はない」という言葉によって、多くの経営戦略理論は存在意義を持つことになった。
つまり、自分の経営戦略理論だけが、理論であるという排他的な考えをミンツバーグが退けたということである。
PPM、SWOT分析、5フォース分析などによる分析型経営戦略理論も、コア・コンピタンス、ビジョナリー、学習する組織、帰納法的経営戦略形成方法などもすべて経営戦略理論であるということになったのである。
難解さを読むことによって克服していこう
『戦略サファリ』は、叙述がかなり難解な著書であるが読了されることをお薦めする。難解な本を苦労して読み、理解が、たとえ半分しかできなかったとてしても、頭脳が訓練され、発達するからである。
私が経験した難解な本は、『資本論』、『ジャズよりほかに神はなし』、『知識創造企業』などであった。
これらを読んだとしても、なかなか理解はできないが、その後、難解な叙述に出くわしても、何とか理解できるようになっていくことができる。
今もって、理解できないのは、『資本制的生産様式が支配的な諸社会の富は一つの膨大な商品集積として現象する』という資本論の書き出しの言葉である。
資本制的生産様式って何?
支配的ということは、他の何か、封建的生産様式があるのか?
諸社会とは?
富とは?
膨大とは?
商品集積とは?
現象するとは?
つまり、すべての単語の意味が分からないのに、理解できるはずがないということです。
理解できないことが恥ずかしいことではない。
読んでいないことがもっと恥ずかしいことだと思う。
経営戦略の学派-1
経営戦略の定義と戦略の範囲・構造について
経営戦略の定義は経営戦略論者が個別に行っていて、多様に存在している。経営戦略は理論と実現が重要であり、定義そのものにはあまり意味がない。
経営戦略の重要さを社内に広げるために、「社員に夢を与え、企業の将来を切り開き、みんなの力を結集して実現していくもの。これによって業績が向上するもの」といったように、社員一人ひとりが定義をしてもよいという性格を持っている。
チャンドラーの定義 「企業にとっての基本的な長期目標を決定し、行動計画を選択し、目標を達成するために必要な資源配分を行う」とチャンドラーは、『経営戦略と組織』の中で、述べている。これは経営戦略に対する最も古い定義であり、経営戦略という用語ができるまでに多用された「目標」という言葉が、説明時に使用されている。
ケネス・アンドリュースの戦略定義 「企業がどの事業に参画しているか、またはするべきか、どんな種類の企業であるか、またはあるべきか、という定義で示される、一連の目標、およびその目標を実現するための主要な方針と計画である」とケネス・アンドリュース『経営幹部の全社戦略』産能大学出版部 1991年で述べている。
これまでの戦略は、持続的な競争優位を獲得するための一連の統合された施策として定義されてきた。この定義は、不確実性が低い従来型の業界構造には現在でもよく適用できるが、それ以外のケースではもっと幅の広い定義が必要である。
戦略の新しい定義は、企業のその後の行動を方向づけるいくつかの決定事項である。これらの決定事項は一度決めると容易に変更されず、戦略目標の達成の成否に深く関わってくる。 具体的な決定事項の内容は、①会社の戦略上のスタンスを選定する、②競争優位の源泉を見極める、③事業コンセプトを立てる、④自社固有のバリューデリバリーシステムを構築する、の四項目である。
ポーターの定義 ポーターの戦略の定義は「戦略は効率の競争とは対極に位置するものであり、他社と速く走る競争に参加するのではなく、他の競争を選択することである」と指摘している。ポーターは、「企業にとって差別化とローコストが基本的な2大戦略であり、成功した戦略はこれらの一方または両方を持っている」と述べ、ローコストと差別化によってターゲットとなる市場セグメントを行うことを通じて、特定の顧客グループ、製品ライン、特定市場に「集中」できるとしている。これが、業界内で平均以上の業績を達成する3つの基本戦略である。
経営コンサルタントによる戦略の定義 元マッキンゼーの経営コンサルタントである波頭亮は、経営戦略とは「競合優位性を活用して、定められた目的を継続的に達成しうる整合的な施策群のまとまり」であるとしている。
ここでいう定められた目的とは、①予算、②目標(経営課題、市場における地位、シェア、ブランド・エクイテイなど)である。これらを継続して達成するために、経営戦略は競合優位性を活用するのである。さらに、これらは一つの整合性のある施策群となっている必要があると説いている。
個々の企業の現実は、経営戦略が明示されている場合もあれば、暗黙裡にしか示されていない場合もある。経営戦略に対して意図されている内容も、「将来の夢」に近い抽象的な次元から、「経営5カ年計画」といった比較的具体的で、ビジュアルな形式知的なものまで多様に存在している。
「企業内の人々の意思決定の指針となるもの」といっても、このように多様な形式で存在しているのである。しかし、上にみた経営コンサルタントの波頭の定義は、「整合性のある施策群」という具体的なものである。企業経営の現実と直接対峙し、格闘する立場にある経営コンサルタントは極めて実践的で、現実的な定義を行っている。
企業内の人々の意思決定の指針 神戸大学加護野忠男教授は、経営戦略とは「環境適応のパターン(企業と環境の関わり方)を将来指向的に示す構想であり、企業内の人々の意思決定の指針となるもの」というように定義している。
この定義には
①経営環境に対応するために将来の方向性やあり方に対して一定の指針を示すこと
②企業が環境適応するパターンを示すものである。すなわち、企業が全体としてどのような事業を行い、個々の事業ではいかにして競争優位を確立するかといった環境との関わり方を示す
③企業における意思決定の指針あるいはルールを示すものである。ただし、経営戦略がどのような期間を対象とするのか、また組織内部でどの程度まで意思決定の規範として機能するのかについては、必ずしも明確にされていない
といったことが示されている。
服部吉伸の戦略の定義 戦略には意図した戦略と創発戦略の二つがある。意図した戦略は環境の変化によって実現されないことが多い。一方、状況の変化に対応して新たな気づきによって形成されるものが創発戦略である。どちらも重要である。また戦略は近未来の業績向上に寄与し、企業の将来を切り開く具体的な諸施策群である。
ミンツバークのポーター批判 ミンツバーグはポーターの戦略をポジショニング・スクールと位置づけ、戦略の策定者と実行者を分けてしまっていること、ハードデータに頼りすぎ、戦略形成プロセスを過度に形式化してしまっていることに警鐘を鳴らしている。
また、集中、状況、プロセス、そして戦略における概念についても批評を行っている。
ミンツバーグのポーターに対する主要な論点は以下の通りである。
①集中についてのアプローチが狭かった
②ビッグビジネスに偏った状況しか見ていない
③戦略策定者が実行者のやる気を阻害する
④創作することが抜け落ち、戦略策定を抑圧している
ミンツバーグが3Mの例を挙げているように、業務の効率化はある種の戦略になる。現場を中心に業務の効率化を計り徹底したスピードで利益を生み出した日本企業は多い。トヨタは革新的な戦略で競争優位を構築したというよりも、地道な絶え間ない改善の積み重ねによって持続的な競争優位を維持していると考えられる。インテルのビジネスモデルも、単に製品を販売するのではなく、業務効率を強化することによって、製品開発の改良と市場投入のスピードアップをはかり、ビジネスを改善することによって競争優位を維持している。
ポーターは戦略の捉え方が狭く、日本企業に「ほとんど戦略がない」「日本企業は戦略を学ばなければならない」としているが、ミンツバーグは「日本企業は戦略を学ぶどころか、ポーターに戦略のイロハを教えてあげるべきではないか」とすら言っている。
21世紀前半の日本企業の経営
21世紀、日本企業の経営はどのように舵取りされるべきなのか
環境の変化について
「激変する経営環境」、「変転極まりない経営環境」といった言葉を聞いたり、目にしたりする。つまり、「いつも、大変だ、大変だ」と言っている経営コンサルタントや学者が存在するということである。これについて苦笑を禁じえない経営者が多いはずである。
なぜなら、経営者は、常に変化しているものであるという所与の条件として環境を捉えている。
また変化には
①リーマンショックのような劇的な変化
②斬新的な小さな変化
③ほとんど変化していない
という三つで構成されており、「激変」「変転極まりない」変化はそうは起こらないことを知っているのである。
変化について経営者は
・その環境の変化の奥に何が起っているのか?
・そこに新しい事業機会はないか?
・そこに新しい市場の萌芽がないか?
・新しい技術は、どのような製品を生み出せるか?
といったことに考えをめぐらせているのである。
上記のような激烈な言葉を用いる人物を経営者はあまり信用しない。それは実力のない学者や経営コンサルタントが用いる常套句であるからだ。
21世紀の日本企業の経営
21世紀、日本の産業のいくつかが中国などにキャッチアップされることは確実である。
このため、日本企業は
①開発型の企業経営
②コア・コンピタンス重視の経営
③高生産性・高処遇の企業経営
④個人対応型の能力開発主義経営
⑤世界市場をターゲットにした企業経営
⑥新産業・クラスターへの進出を考慮した経営
⑦コンブライアンス、情報のディスクローズ
などを行っていく必要がある。
ここで重視されるのはイノベーション、ミドル・アップダウン・マネジメント、キャッシュフロー、学習する組織、コア・コンピタンスの創造などである。これによって新たな日本的経営を模索することになる。その手段となるものが、資金調達、M&A、アライアンスなどである。日本企業の変化は日本的経営の変化として捉えられることになる。