固変分解をせよとは言わない通常の財務・会計は、『ここで固定費と変動費に分解して…』という説明を加えるのでしょうが、『社長のための財務・会計学』では、そのような通俗的なことはしません。
経費を
①売上高を稼ぐ経費
②会社の成長のために必要な経費
③優れた管理者を養成するための経費
④その他
というように分類します(分解ではありません)。
売上高を稼ぐための経費は
・人件費
・広告・宣伝費
・物流費
・旅費出張費
・通信費
などです。
これらは、支出が『合理的であるか否か』が問われています。
会社の成長をもたらすために必要な経費は
・減価償却費
・研究開発費
・試作費
・新聞・図書費
・システム費用
・調査費
などです。
◆今年度の新商品はいくつ上市されるのか?
◆来年度の新商品はいくつ上市予定なのか?
◆そのための費用である研究開発費、試作費、調査費などが、前年度にどれだけ支出されているのだろうか?
ここでこそ、費用対効果を検証すべきなのです。
人件費で5000万円、試作費で2000万円、調査研究費で1000万円、その他モニタリングの費用などで1000万円、都合9000万円の費用を使用して、開発商品が一つであり、それも不発で在庫の山になっているようでは、開発部門の存在そのものが問われることになります。
これらは『支出の内容が成長のために必要なものであるか否か』が問われています。
また『開発テーマ』『研究課題』について、ゴーをかけたのは社長であるということも想い出すべきです。
優れた管理者を養成するための経費は
・人件費
・教育費
です。
一般社員の採用は比較的容易にできますが、優れた管理者をとっかえひっかえできるのは大企業、それも外資系優良企業の話です。
例えば、GE、J&Jは管理者以上の供給源となっています。
それで、GE、J&Jの経営レベルが落ちるかというと、そうではありません。
前任者を超えるような能力を持った人材が後を襲うという構図になっています。
GE、J&Jなどの一部の業界トップ企業に優秀な人材が偏在しているのです。
日本は優秀な人材が退職しない風土があります。
日本では30歳代前半までの管理者候補を採用し、自社の管理者として育成するようにもっていく方がよいと思われます。
リタイアした元大企業の管理者には、
・中小企業の現場に自分が在社した企業の仕事の方法を持ち込もうとする(応用力なし)
・昔話をする(志なし)
・差別する(中小企業を一段低く見て、俺は違うのだと言う)
・仕事のスピートが遅い(行動が緩慢)
・話の焦点が合わない(大企業をやめて中小企業に勤務しているのに話が大きくピントが合っていない)
といったことがよく見られます。
中小企業経営に当たっては、『マネジメントチームに人材を得たら戦える』という服部の言葉を思い出してほしいと思います。
まずは、財務、営業、製造、開発、品管、システムなどに1人ずつ優秀な人材を確保することです。
これらの人材には30歳代で800万円、40歳代では1000万円以上の年俸を払うということも覚悟していただきたいと思います。
このように人件費、教育費が支払われているかどうかを知っておくことが経営者に求められます。
これらの人材採用は、契約制、年俸制で慎重に行うべきなのです。
財務分析は価格を無視している財務は売上総利益(粗利益)に対して、『もう1%上げろ』といった結論を簡単に出します。
価格、市場での地位、競合、見積、営業力などついて、つまりマーケティングや営業との関係がないため、財務からの視点は無邪気で無責任です。
社長が『もう1%粗利益率を高めよう』と言ったとしたら、これはアホです。
1%の粗利益率アップの戦略は
・○○品群を育成し、その売上高を3億円にする(粗利益ミックス)
・△△商品の取り扱い廃止(低い粗利益率で資金を食い、かつ業績に悪影響を与えるような商品の廃止)
・××品群の見切りを少なくする(適正発注×商品の筋×・・・)
・ベタープライス、ベストプライス商品の開発(商品原価が高いと開発努力は水泡に帰すが…)
といったことです。
その結果、粗利益率は向上するのです。
このように言うと、異論が出ることも確かです。粗利益率が低下しても粗利額が増えれば良いあるメーカーは、粗利益率が25%程度の○○分野の商品を一つはラインナップ強化のため、二つ目の理由は総合化のために販売したところ、3億円の売上高を獲得しました。
この結果は
・売上高30億円
・既存商品の売上高 27億円 90% 粗利益率40% 粗利益ミックス 36%
・新商品の売上高 3億円 10% 粗利益率25% 粗利益ミックス 2.5%
ということで、粗利益率は38.5%と1.5%低下したことになります。
しかし、新たな3億円の売上高による7500万円の粗利益額と相乗効果によって、本業の売上高も微増を示し、黒字転換ができたのです。
この事例からも言えることですが、粗利益率の向上をはかりつつ、粗利益額の増大をはかることが重要なのです。価格政策『財務・会計は結果を示すだけであり、何も教えてくれない』という人がいます。
これは『結果を示すだけ』というのは当たっていますが、『何も教えてくれない』というのは正しくありません。
自分で戦略の検証をしたり、行動のあり方を想起したりすることがポイントになります。
価格については
・会社としての基本的な価格政策
・主要得意先に対するフリークエンシー・ショッパーズ・プログラム
・粗利益ミックスによる利益貢献度の高い商品群に対する戦略
・逆の利益貢献度の低い商品群に対する戦略
・新商品に対する価格政策
・見積のガイドラインの設定
・PPMによるスター商品に対する戦略
・PPMによる問題児商品に対する戦略
・チャネル別の価格政策
といったものが確立されている必要があります。
『高く売れ』とか『粗利益率を1%高めよ』などということは、社長が価格政策を確立していないことを表しているのです。
価格は『価格政策×ブランド戦略×市場における地位×ガイドラインの設定×営業担当者の訓練×バリューチェーン・・・』という構図の中で決まっていくのです。
『売上総利益=粗利益率』は経営の根幹を成すものであり、社長の学習が必要とされるところなのです。
在庫回転数の背後にあるモノ超脱線マンである私は、余談・事例・切り口が多数あります。
このため、講義・講演ではテキストや当初の論理設定などそっちのけで、気の向くまま話をしていることが多くあります。
しかし、書く場合は事例を挙げる程度でそうは脱線できません。
今号もこれで終わろうとしていましたが、タイトルが『在庫回転数』になっており、論述不足になっていることを思い知らされました。
喋る、つまり私の講義がいかにいいかげんなものかということを思い知らされています。
今号では在庫の背後にあるものを探る必要があります。売上高からみた在庫売上高は
・在庫内容(在庫金額) 5,000千円
・商品回転数 20回転
によって構成されています。
この事例では売上高は1億円になります。
しかし、在庫内容が悪ければ、商品回転数が低く売上高は3,000万円しか計上することができないかもしれません。
問われているのは在庫の金額ではなく、『在庫の内容』です。
在庫の内容とは
・古い商品がない(商品の鮮度)
・死に筋がない(売れない商品)
・超稼ぎ筋商品が多い(売れて、利益の出る商品)
ということです。
経営者は在庫高を見るのではなく、『在庫の内容』を見る必要があります。
それが経営者の財務論です。
しかし、この知識・スキルは財務ではなく、マーケティング、マーチャンダイジングを学習することによって獲得されるものなのです。小売業の在庫論小売業の在庫論は
・フェイス数
・1フェイスの在庫数
・商品回転数
で求められます。
この場合、『5フェイス×在庫数10×商品回転数15=750の販売数』ということになります。
これを3フェイスにした場合、3×10×18回転=540と効率が上がります。
残る2フェイスに他の商品を陳列し、2×10×15回転で300の商品が売れます。
この事例では合計すると840の商品が売れ、1つの商品に5フェイス与えるより多くの販売数・売上の増加をもたらしています。
それでは、全ての商品を1フェイスにするともっと多くの売上が獲得できるのではないかという仮説が生まれます。
残念ながら、これは暴論であり、売上高は低下します。
なぜなら、『類似商品が増える』『ターゲット顧客に対する品揃えにならなくなる』『焦点のない・主張のない総花的な売場ができてしまう』からです。
卸売業も同様です。
『何でもあります』という要素は重要です。
その一方で主張・提案が必要とされるのです。メーカーの在庫戦略メーカーは在庫を(資材を含めて)一切、持ちません。
『受注してから生産する』のが基本となります。
『見込み生産』というリスクを逃れる方法は
・来月納期の商品を受注する
という形に受注方式を変更することです。
もう一つの方法は
・需要予測システムを確立する
ということです。
しかし、これに成功している企業は存在しません。
例えば、10社の卸売企業と取引しているとします。
そして、10社の卸売企業に1,800人の営業担当者がいたとします。
この1800人が、どのような提案を各得意先に行い、その商談がどの段階にあるかは捕捉できません。
ましてや、卸売業の商品担当者も把握していません。
だから、受注してから発注があるということが普通の姿なのです。
そして、納品を即納で行えという取引が多いのですが、これでは全ての商品を山のように在庫しなければなりません。
これを防止するためには、
・主要商品の常備在庫化
・その他の商品の受注生産
という方法を採用することです。
これによって、在庫を半減することができ、事実上リスクを逃れることができます。
なぜなら、販売数量の大きい、確実に需要がある商品のみ見込み生産を行うことになるからです。
ただし、リスクは逃れることができても、在庫に対する資金負担は逃れることができていません。
在庫回転数の持つ意味在庫回転数は、
①前期末在庫高+今期末在庫高(30,000千円+34,000千円=64,000千円)
②①を2で割り、平均在庫高を算出する(32,000千円)
③売上高を平均在庫高で割り算する(640,000千円÷32,000=20回転)
と計算式で算出されます。
在庫回転数は
・財務の知識からは資金効率
を表します。
高い方がよいとされています。
これは財務論からみた在庫の話です。在庫と経営戦略随分昔のことですが、オンワード樫山の年間の商品回転数がそれまでの10回転程度から4回転に落ちたことがありました。
これは『悪化』であり、大変なことでした。
しかし、素晴らしい戦略が背景にりました。
商品回転数が年間4回転に落ちた年は
・委託販売からオンワードの管理売場に変更した
・オンワードが予算を確立し、百貨店に提示し協議する
・オンワードが販売スタッフを派遣する
・オンワードが品揃えを決定する
・オンワードが商品政策を決定する
というようにオンワードにとってエポックになる年でした。
オンワードのこれらの戦略は『百貨店に商品を販売する』ということではなく、『百貨店で商品を販売する』というものでした。
この『に』と『で』には大きな違いがあります。
百貨店の売場にある商品は全て百貨店が仕入れたものではなく、オンワードがリスクを持つ在庫が陳列されているのです。
このオンワードが先鞭をつけた取引(他の小メーカーで実験されていた可能性はありますが…)をワコール、東京スタイル、レナウンなどが継承し、百貨店で販売するメーカーが一大飛躍を遂げることになりました。
この時、私が勤務していた会社は『百貨店で販売する戦略』を採用することができず、『スーパーに販売する従来の取引形態を継続』し、経営がさらに混迷を深めると同時に長期低落の道に転落していきました。
このようなオンワードの戦略は、財務の知識から確立されたものではなく、
・市場に対する支配をどうするか
・今後の消費動向
・販売チャネルのあり方
・商品開発のあり方
などから割り出された戦略なのです。
経営戦略と財務
もちろん、資金の多寡が採用できる戦略に影響を与えます。
必要な戦略であれば、上記のオンワードのように一時的に財務内容が悪化することを覚悟して自社売場確保戦略を採用することになります。
この時も財務部は強硬に反対したということが漏れ聞こえていました。
逆に言うと、戦略を採用するために資金調達を行うことが財務部の仕事となります。
財務は戦略に従属することが多いものです。
もちろん、戦略も財務に影響されることがあります。